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ヒロミツはなぜコウイチを殺してしまったのか

2022-09-07

 

以前noteにあげたもの(https://note.com/tomoshibi__/n/n0625e24e7ab0)をそのまま移しただけ。

noteの方はいずれ削除します

はじめに
北山くんのこと、あまり存じ上げておりませんでしたので、全くの先入観なしで観れて新鮮でした。

ヒロミツ、1にステージ、2にカンパニー、3にコウイチって感じのライバルで、ステージを愛している気持ちがあってとても好きなライバル。
1幕の公演の一人でシェイクスピアやってろとか割と軽口気味だったり、少しお調子者な面を見せてカンパニーないの立場を作っていることだったり。自己確立の点においてコウイチとのシンパシーを感じてしまって声にならない悲鳴が出そうだった。

1番に立てるスキルがあるけれどあえて2番手にいるようにそしてコウイチが輝くように助力していた面があったのだと思う。まあでもコウイチの「リーダー」としての大変さは分からないんだよなあ………。別にヒロミツはリーダーになりたいわけではないと思うけど、リーダーであることが皆の注目を集めるのか、皆の注目を真っ先に集めるからリーダーになれるのか(他に注目を集める人がいるからリーダーになれないのか)は鶏と卵問題なので。リーダーであることとスターになることは同じことでもあるけれど、必要とされる要素は別で、そしてヒロミツは特に前者が少し足りなかったのだと思う。

ヒロミツは自らが2番手の立ち位置にいることを許していたり(オフブロードウェイにおいての2番手は3番手と実質同じ)、MOVE ONも小慣れて完全に自分のものにしているあたり、ちゃんと「ステージを成立させる」ことを重視する人なのだと思う。コウイチと同じなんですよねこういうところ。

だからある程度(許せる程度)コウイチとそのカンパニーのために削っているところ、我慢していたところが常々あったんじゃないか。そんな状況下でコウイチがいないとやっていけないじゃない!なんてリカ(同じく2番手3番手)に、自分と立ち位置が最も近い同族に言われたら、直前までシェイクスピアやってろよぉwだったのが「お前は黙ってろッ!!」ってガチギレするのもわかる。最初絶対DV夫になるじゃんとか思ってごめん…。

「俺は俺のやり方で進んでいくんだよ」というヒロミツは多分「ヒロミツのやり方」である程度成立させられそうだし、別にカンパニーの中でそのくらいの色は出しても許されると思うんだ。ヒロミツは俺のやり方で進んでいくと言ってもカンパニー内でやるのならば周りにフィットするような形でこなせるはず。なんたって客観視して飄々キャラを作るような男だから。コウイチと同族だぞ。
 そしたらコウイチに周りが見えなくなったらおしまいだぞってちょっと上から目線に言われるの、ムカつくよなあ。勝手に心配した気に、世話焼いてるような気になりやがって!!って新聞を投げ捨てる。でもその新聞を拾うのがコウイチのリーダーたる人の上に立ち導いているが故のキャパシティの広さを表していている。(なお新聞がセンターまでふっとんだので若干コウイチさんはへの字を書くようにして新聞を拾って行ったのだった)(コウイチさんは掴みかかることはあれど新聞を投げ捨てたりはしない)

 オンブロードウェイの楽屋裏、実はここで1番焦って周りが見えなくなっているのはコウイチ。毎度毎度必ず評価がついていつ終わるかもわからないオンの世界で、コウイチはあの手この手と手数で不安を打ち消そうとしている。それにカンパニーは対応できていた。しかしスタッフはどうだろうか?ついてこれなかったんじゃないだろうか。
 ヒロミツはコウイチ同様オンに対する焦りを抱いていて(ミスをしてしまった時は当事者なので動転のあまり視野が狭くなってしまっているが)、ヒロミツの言う「言わないことがいいことなのか?何かあってからでは遅いんだよ。だから俺が代表して喝入れてやってんだよ」はとっても説得力があった。コウイチとカンパニーのためのガチ正論。
 そのヒロミツの言葉を状況を見てリーダーとして折らなければと駆られたコウイチが持ち出したのが、「カンパニー全員が対応した。『お前以外はな』」というカード。
 反論しずらい直前の落ち度を指摘する上に「もうステージに立つな」と切り捨てられてしまって。その言葉が、ヒロミツが踏んで来ずなんだったら遠ざけていた超えてはいけない線を一気に踏ませてしまった。

 コウイチは「そんなにやりたければやればいいだろう、俺抜きでな!俺の立ち位置もヒロミツ、お前がやればいいだろう!」と言ってくる。コウイチ含めカンパニーのためを思って発言していたヒロミツからしたら、もはやコウイチから裏切られたも同然。えっ?と驚きのあまりヒロミツは抜け殻のようになっていた。 
 余裕そうな飄々とした1幕前半の様子は鳴りを潜め「コウイチにも何か考えが…」って言ったショウを結構な勢いで突き飛ばす。(あまりにもショウが可哀想過ぎておいおいそれはやりすぎだぞ!と心の中でツッコんだ)
 この時のショウ、尻餅ついて自分の目の前を通り過ぎるヒロミツに対して信じられない、という唖然とした顔をした後立ち上がって、なんなんだよアイツ!と腹立たしい感情で顔を拭っていた。この時ヒロミツはショウからも見限られたんだろうなと思う。こうしてカンパニーが崩壊する音が聞こえてくるの切ないね。

ここでちょっとコウイチageを挟むけど
 こんなにバッグで色々と起きているのに「二幕始まるぞ準備しろ」と言うコウイチ、切り替えるのが流石リーダー座長だしここで一息いれるコシオカさんはナイス右腕。割と淡々としているカンパニーの参謀役。
 ヒロミツにsmgoかよ、と言われてコウイチが上を向いて刀に手を当てる楽屋裏終わりのところでグッと堪えて、切り替えるのではなくてため息を呑み込むような顔をしていたのがとても良かった。リーダーに求められる素質というのは時にはこういう複雑なところを受け止め、時には飲み込むことなのだと思う。
 飄々としていたヒロミツがポツリと溢したsmgoかよ、という本心にも寄り添うように刀に添えられる手。ヒロミツの気持ちを受け止めて否定はせず、でも目の前にある道を走り続ける男、それがコウイチ。
〜コウイチageタイム終わり〜

 コウイチが真剣を自分側に寄越してきた時にヒロミツが無のような表情をしていたのはコウイチを嘲笑うでもなく、おちょくるでもなく、これが俺の選択なんだと言わんばかりの表情。ヒロミツにとって多分一生で最初で最後の反抗になるはずだったと思う。
 その証拠に本物の刀を持って来られた時もヒロミツはちゃんと「役」を全うしてステージの上に佇んでいたし、逆に真剣に動揺したコウイチがステージに服もろくに着られず出てきたヒロミツの写しだった。
 この部分から2幕でのコウイチの「ステージに対応できなかったのは俺の方だった」にかかるので、この《刀を突き刺した時に表情を変えないライバル》をみて、こういうライバルが欲しいと思っていたからめちゃくちゃ興奮したな。

2幕、コウイチを失ったヒロミツは特技の《客観視》を失ってしまったことがありありととれて切なかった。
 例えばシェイクスピアシアター。「役(リチャード3世)」とヒロミツの声を使い分けているのだけれどヒロミツとしては1幕の飄々としたなりや強情なときの芯のある姿は完全に消えすごくナヨっとした声になってて、やっぱり変わってしまったんだなあと。取り繕えなくなってしまったんだなとあまりの変わりように胸が痛む。
 平坦なhigherもそう。higher〜⤴︎とがなり上げるのではなくて、息苦しそうにhigher⤵︎と落ちてくのがヒロミツの現状を指しててた。んでその後にピョコって出てくるコウイチ(めっちゃ二の腕鍛え直してた)
 コウイチが動いてると知った時のヒロミツは最初驚きと少しの安心感で言葉を落とすようにコウイチ?と呟き、そこからずっと袖でチラッと振り返りまた顔を背け感情のやり場のないままジャケットをぶん投げてて、やっぱりバランスが取れてない。ヒロミツは一年の間ずっとこうして自分の感情がままららないのだなあ。苦しい。

 リカにナイフを渡し「俺もう救われねえんだ」というのも、もう自我の半壊というか、ヒロミツ自身も自分の心のバランスを取れてないことを自覚しているし、意識を失う・この世から自分の感情・存在を消す、死ぬことしか逃げ道がないと、そう考えている。

 コウイチの死を知った時受け入れずに逃避反応が入った後、オーナーにかけよって嘘ですよね嘘って言って、いってよぉ…、いえよぉ……って幼く稚拙になっていくのは頭脳派なヒロミツの姿とかけ離れていた。コウイチの死というのはそれほどのショックだった。リカの言葉も皆には響いていたけどヒロミツは空虚にかえり過ぎてなにも響かず、そんな空洞ヒロミツの心を取り戻させたのは同族たるコウイチの言葉だった。

「俺たちはひとつ苦しめばひとつ表現が見つかる、ひとつ傷つけばまたひとつ表現が作れる ボロボロになる、その分だけ輝けるんだぞ」

 ヒロミツの肩に両手を当てながら、じっと目を合わせて真剣に、でも優しい表情をしたコウイチが自分の持つ全てをヒロミツに受け渡そうとしている。継承とかではなくて「あげる」という感じ。この思いをあげるから、もうすぐ消えゆく俺の全てをあげるから、戻ってこいと言う。
 「殻に閉じ込めるのはよせ」と言うのは他人に見えない殻を強いていたかもしれないコウイチが死んだから言える言葉。生き急いだが故に殻に収める原因を作ったのはコウイチだから。

 ヒロミツの心もようやく呪縛から解き放たれたように丸裸になって。背中を向けたコウイチの腕を引っ掴んで「もう一度ステージに立たせてくれないか」と嘆願した時の声は、ちゃらけた感じでもなくそして現実から逃げたい気持ちが前面に出たナヨっとした声でもなく、心からの声だった。その誠意と意気込みが真っ直ぐに力強く伸びた「いくぞー!!!!」に込められていた。
(引っ張られた時コウイチちょっと滑ってたんだけど体重5g?)

 私がここまでコウイチ寄りではなくてヒロミツに言及してしまうのは、そして過去1番ラストコンティニューの「コウイチ、あなたには仲間がいた」というオーナーのセリフが響いたのは、紛れもなく歌穂オーナーの存在によるものなのです。

 生で見た記憶が全てビバさんオーナーに上書きされてしまったのでビバオーナーしか言えないのですけど、実はビバオーナーはオーナーでコウイチにひとつの押しつけをしていたような気がするんですね。誰もコウイチの苦悩を真に理解してはいない、コウイチの心配をするのとは別の思い、なにかしらの期待心・心酔が両立していた。

 けれども歌穂オーナーはただひたすらコウイチを想っていた、その優しさが伝わってきた。そう思わされたのは屋上でのシンクロシーンだったり、そっと後ろから抱え込む時に添えられる指の浮き具合だったり。そんな些細なことなのですけれども。でもそんな些細なことがミュージカルでは一つの解釈の引き金になる。

 歌穂オーナーの存在が「コウイチは本当は孤独ではなかったのに、無条件に想ってくれる人がいたのに、周りが見えなくなっていた」というコウイチの落ち度を補強していた。さらにオーナーが「あなたには仲間がいる」と声をかけるけれど、その《仲間》の中で1番揺らがないのはオーナー、あなただと思うんです。
歌穂さんのオーナーは時にカッコよく時にキュートで、コウイチを真っ直ぐ想う気持ちが前面に出ていてとても素敵だった。


私、ヒロミツならSHOCK世界を100回ループしたら、もしかしたら千穐楽の日には刀をすり替えないかもしれない世界を作ってくれるんじゃないかなと思っています。1幕終わった後も、2幕終わった後もそう思っている。

しかしヒロミツはカンパニーやコウイチのためを思ってあえて自分を抑えていた面があったので、いつか遠い未来でもこうなる運命だったかもしれない。でもヒロミツなら、ヒロミツならコウイチをあそこまでオンのプレッシャーに追い込むような状況を作らなかったと思うし、結果コウイチが「俺抜きでな」という言葉を吐かずに済んだ未来も作れるんじゃないかな。

ヒロミツならsmgoかよ…、と言った後に冷静に戻って刀をすり替えようとしてやっぱり思い直す、そんな未来が千穐楽には来ていいんじゃないか。そう思っています。

コウイチもヒロミツもまず最初にステージに対して同じ熱量の誠意を持っているところが非常にいいライバルだなあと。でも2人のスタンスの違い(ヒロミツはアングラ、コウイチはトラディショナル)から今回はコウイチが一部ヒロミツに我慢を強いるような形になってしまって。そこが悔しいところでもある。(コウイチの生存をいつでも願う人)
ヒロミツがコウイチを殺すのは運命なのか、それとも必然なのか。必然だったかもしれないけれどヒロミツならその必然を先延ばしに出来たと、そう考えてしまう。

とまあヒロミツさんの解釈が公演見て1日経った今固まってきたので書いたらそこそこの文量になってしまったのですけど
そもそも
博多座
・2年ぶりの本編

_人人人人人人人人_
> 2年ぶりの本編 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

冷静でいられるわけがなかった!!!!!!!!!な!!!!!!!
公演内容に対して一つ一つ書いてるともうすごい長さになるから後でにするとして、一つ言えるのは歌穂さんと光一さんの絡みはso cuteということと、↓です。見た時n回目の惚れ直しをした…………とってもかっこよかったし、多分めっちゃサイドからじゃないと見えないような画角でサッとやっていたのもスマートでとても良かった…

今年のコウイチ、より苦悩する人間ぽさと一幕序盤でのリーダーとしての柔らかさ、それと対比して楽屋裏での凄みのある狂気が強烈に良くて、やっぱり今年も私はコウイチ推しだな〜。

 

https://twitter.com/i/events/1574894264781185024?s=21&t=8r-kvwhowpvBnO0isdOGiA